2016年4月号

お互いさまの恵み


「せんせい、ブランコおして!」と、朝声をかけてきてくれたのは、3歳児のNちゃん。満3歳で入園しているから、幼稚園のことは新入の方よりちょっとどころか、一杯知っている存在でした。それでもまだ命を与えられてから、3年とちょとしか立ってないのでしたね。新入の方に気持ちを取られて、ちょっと心細くなっていたNちゃんのことを、気にかけることが少なくなっていたのでした。
ブランコに座ると、私のお得意の前押しが始まります。お子さんの膝を前から押すのです。そして足の屈伸のリズムを声をかけながら伝えたり、顔の表情を見ながら歌を唄ってリズムをとったりもしながら、楽しみます。Nちゃんも足を伸ばして曲げてと、はりきってやっていました。そのうち隣に5歳児のKくんがやってきて、「先生押して、ぼくまだ出来ないんだ。」と頼んできました。まあ~驚いた。昨年度は周りの視線を気にして、出来ないと思っていることはやらない!と頑なだったのに、どこからチャレンジマンになってきたのでしょう?うれしいなあ~と思いながら、Kくんには空をキックするようにとイメージしてもらって、伸ばした靴の底をぐーんぐーんと押しました。その力のやりとりがおもしろいようで、ぐんぐんおなかの筋肉も動き始めていきます。3歳でも、5歳でもこんな風にそれぞれの今を素直に出し合って、伸びていけるって素晴らしいことです。
現代は、困難を抱えている状態を見ていることが苦しくなってしまう大人が多いのでしょう。困難を、困り事がある人や、生きづらさを抱えている人、心身に不自由さがある人と置き換えると、本当は誰もが何かしら困難を持っているのにもかかわらず、生産性が少ないという価値観で存在価値をおとしめる風潮が後を絶ちません。生きることの困難さを強いられた人の事件の報道は、本当に多くなりました。ブランコを押してもらう側も、押す側も、困っていることを伝えてもらえたならば、もうそこからはお互いに与え合う存在になって、お互いに成長し合えるのにな~と思うのですがね…。

園長  松本 晴子

つくしっこクラブ
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