幸せな時
20年前くらいのことでしょうか。朝日新聞におもちゃデザイナーの紹介が載っていて、目に留まったのは。この世の中には絵本以外にも子供の事を真剣に考えていて、本物を追い求めている方々がいるのだという視点は、私には驚きであり、感動でもありました。子供の文化を熱い思いで支えている方々は、ただ売れるかどうかという経済優先主義の中からは一歩外に出て、長い期間を製作に費やします。こんなに荒廃してきている自分中心の家族社会、経済の歯車から抜け出せない日本社会に、ひたむきに一石を投じ続ける子供心を失っていない大人がいるということが、この国を地味に支えていると心から思うのです。
自然界にも本物は色々ありますね。小春日和の午後、幼稚園下の遊歩道の脇にクヌギの木が立っており、クヌギの落ち葉が山のように落ちていました。秋とは違って、ぱりぱりに乾いています。預かり保育の子供達が、保育者と一緒にその中に寝ころんでいました。日向のにおいがしてあたたかく、空を見上げて幸せな時間が流れたそうです。私たちが幸せに生きるのに、なくてはならぬものはそう多くはないと思うのですが、肝心の本物と本物と向き合える時間がなくて、贅沢な物か貧弱なものが安易にばらまかれているように感じるのは、私だけではないと思います。幸せな時を、今目の前にいる子供達と共有したいと、心から思います。
園長 松本晴子
寒い朝に・・・
朝夕がとても寒くなったので、私は色々な容器に水を汲んでおきました。そしてある寒い朝、子ども達と氷を見に出掛けました。園庭の角に置いてあったバケツ・紙コップ・牛乳パック・発砲スチロールのケースを覗くと全てカチンコチンに。さっきまでは「寒いから触らないよ」と言っていた子ども達も、「うわぁ!でっかいのができてるぅ!」「空けてみよう!」と、もう寒いのはそっちのけで皆でケースを運び出しました。ひっくり返すと・・・出来ていました!板状の大きな氷・カップ型の氷・葉っぱが混ざった丸くて大きな氷。中でも子ども達が一番興味を示したのはかごにくっついてできた氷でした。
これは、ちょっといたずらをして水の中にかごを一つ沈めておいたものです。かごから氷を外そうと子ども達の試みが始まりました。「水を掛けたら?」と何度も水を掛け、何度掛けても取れないと、「お湯が無いと駄目だ」と言います。お湯を汲んであげると発砲スチロールの中にお湯をため、かごの氷を入れて割り箸でつついています。お湯が水に近くなった頃、かごからやっと丸い氷がとれました。子ども達は氷が薄く小さくなってしまった事は全く気にせず、かごからとれた事を素直に喜んでいました。
お片付けの時間になると「溶けるともったいないから」とAちゃんがアルミホイルに氷を包み始めました。「アルミに包むと溶けないの?」と他の子ども達も真似します。水分のある氷は包みにくくて、何度もアルミを破きながら包みました。そしてお帰りの時間。B君がアルミを開くと、残っていました!ほとんど溶けない氷が、きれいに。
アルミと日陰、どちらのおかげでしょうか?明日寒くなれば、今日子ども達がくんだ水が凍って、また違った実験をする事でしょう。明日はどんな遊び方をするのか、私は私で明日はどんないたずらをしておこうかちょっとした冬の楽しみを味わっています。
小林 悠子