変 化
2学期になって2ヶ月たって、子どもたちの周りの人間関係も緩い変化があるものです。住まいが替わった方。新しい満3歳児(虹組)の入園者。幼稚園を見学にみえる幼いお子さんと親御さん。バスコースが替わったり、習い事を始めたり。ここに例として挙げたことはほんの一握りで、子どもにも大人にも日々思いがけない変化が与えられているのが見えてきます。そしてその変化に向き合って対応していくのが、私たち人間の能力なのかもしれません。
ある日の光景が思い出されます。降園時間で、1回目の園バスのメンバーが乗車したところへ門からよく通る声で「Uくん。信じて!僕のこと信じて!」と呼びかける声が。振り向くとRくんが一生懸命バスの中に呼びかけているのです。「先生、ぼくUくんに聞こえるように言いたいのだけれど。」彼は必死で訴えてきます。Rくんは5歳児。Uくんは3歳児。私はその必死さに手をつないでRくんをバスの階段に誘導し、顔の見える関係で伝えてもらいました。「ぼくのことを信じて。ぼくが守ってあげるから。わかった?」UくんはしばらくじっとRくんの顔を見つめていましたが、こくんと頷いたのです。Rくんは安心して戻っていきました。この言葉の背景を確実に知ることは第3者の私には出来ませんし、おこがましいことです。ただ知り得たことがあります。幼いUくんは、朝幼稚園に行くのがまだしんどい時があるということ。その状態を見て、5歳児のAくんがバスの中で気にかけてくれていたということ。そのAくんがそのバスに乗らなくなるという変化があり、今度はRくんが、ぼくが気にしてお世話してあげるからと、思ったようなのです。いつものお兄ちゃんが乗らなくなったことの変化に不安げにしている様子を見たからなのか、先生に力になってほしいと頼まれたかのか、そこまでは辿りませんでしたが、驚かされるシーンでした。困っている人へ今までの自分の引き出しに入っている経験を引っ張り出して、よいと思われる方法でアプローチする。こんな所へ5歳児になってたどり着いていることに、感動してしまいました。もちろん1分後には、他のことで他者とトラブルを起こしているのかもしれない人間なのですけれど、そのまるごとをふくめて、すこーしずつ上昇していく幼稚園3年間なのだと思わされました。その時はマイナスと思われることも、フォローの仕方によっていくらでも生きていくのに役に立つ。本人にも自分にもいい聞かせる変化の時期です。
園長 松本 晴子
小さなアーティスト達を見つめながら
5月から月に何回か『アトリエトトロ』いう活動を進めています。三原色の絵の具を使っての混色では、どんどん生まれてくる美しい色に夢中になりました。今はアルミの針金を使っての造形が注目を集めています。あらためて、人は美しいものに心動かされ、美しいものに憧れるように創られているのだなあと思わされます。美の探究というと少し大袈裟になってしまいますが、今回は針金を使っての造形活動の中で、子ども達の「芸術の秋!!」にちなんだエピソードをお知らせいたします。
●仲間との空き箱製作や、それを使ってのごっこ遊びに勤しむA君(4歳児)が、一人抜けてアトリエトトロにやってきました。「どうやるの?」初めての素材にどう取り掛かったらいいのか少し戸惑ったものの、保育者の手の動きを追うようにして、グルグル・クニャクニャ……そして、「できたァ!!」と一声あげるなり、いつもの仲間のところに戻っていきました。あっさりと立ち去ってしまったA君に、私は「もうちょっと君の『創作活動』を見ていたかったな…。」と心で呟いていました。
次の日は絵本の貸し出しの日でした。A君は絵本棚の上に飾られた自分の作品を探し手にすると、再び「創作」開始。片付けの声がかかる迄、グニュグニュ・グニャグニャ…大胆に力を加えどんどん変形させていきました。何度も手を加えられる素材だからこその「つづき」でした。(…終わりがないのが楽しい。楽しいから終わりがない…。そうだよね。)
●アトリエトトロの常連の一人であるBちゃん(4歳児)はきれいなものが好き。Bちゃんは針金よりもキラキラモールのほうが気に入ったようで、針金にキラキラモールを巻きつけ始めました。きれいな針金にしたかったのでしょう。周りから「きれい!!」と言う声が漏れる中、納得がいくところまで巻きつけてからグニュグニュ形を作っていきました。そして仕上げると、「先生、これお家に持って帰っていい?」と聞いてきました。
「少し飾って、みんなにも見せてあげようよ。」「…うん。」しかし、後で名前をチェックしてみると、Aちゃんの作品が見当たりません。
翌朝、「Aちゃんのグニュグニュしたの(作品)なくなっちゃったみたいなんだけど、知らない?。」「お家にある…。」「良かった!! また、作って飾ろう。」「うん。」
(そうだよね、持って帰りたいよね。わかるわかるその気持ち。
フリー担当 深谷幸代