『シナの五にんきょうだい』は昔から私のお気に入りの絵本でした。親切にも海の水を飲み干してあげて、さかなを拾う地元の子どもが溺れないようにと口の中にすべての水を蓄えて吐き出すのを我慢している長兄のシーンは、何度見ても胸を打たれてしまうのです。その苦しさがこちらにも伝わってきて、「早く戻ってきてーーーーーー」という全身の身もだえに、あの子なんでもどってこないんだよ!!とサスペンスさながらに子ども心に思ったものでした。それは今も変わりません。特技を持った5人の兄弟が、子どもを見殺しにした罪に問われている長兄を、知恵を使って自らの特性を利用して助けていくお話です。
この絵本はフランス生まれのアメリカ在住の女性作家によりますが、子どもたちに大人気であったそうです。しかし、時がたち中国の暮らしや人への差別が散見するということで、日本でも福音館は重版をやめました。ちびくろサンボと同様に、訳を改めて別の出版社から出されて、今また楽しむことができます。読んでみての大きな違いは、石井桃子さんの訳が、感情を表現せず聞く者、読む者の想像にゆだねている点なのかな…と思わされます。子ども心にあふれている石井桃子さんの訳本にふれて育った身として、最初の作品に出会えたことを心から幸福に感じるこの頃です。
 
							