社会の中で育つ
幼稚園時代、子どもたちは夏休み明けをどんな気持ちで迎えるのでしょう。だんだん待ち遠しくなっていってもらえたら、それにこしたことはありません。8月の夏期保育の始まりは、大方ちょっと頼もしくなった体と顔つきでやってきます。それでも個々人には心配や不安がなにかしらあるものです。Tくんは泣いてやってきました。まだ幼いのでその不安がなんなのか言葉では言えませんでした。お部屋には入らずテラスに座るという行動で時間がたっていきました。その日は桜の黄色い落ち葉と桜の小枝が、Tくんの心を溶かしていきました。大人が集めてきた葉っぱや枝の色合いに気づいたり、折ってみたり、握ってみたり、そのうち穴に差し込んでみたり。(そうしたらありの見張り役が巣穴から出てきたのです!発見でした。)もうTくんは夢中の世界に入っていきましたので、そのあとは遊びを楽しむ方へ、保育者を介してすすんでいきました。たった2日間でした。私がTくんと付き合ったのは。3日目は表だって私を必要とはしなかったのです。
ただ課題はあります。それも大きいと思われる課題です。これは大人に余裕がないと出来にくいのです。
保護者の方もうなずくところではないでしょうか。ある日は不安そうなお子さんがいたのに、直接関わることが出来ませんでした。他のことが優先されてつきあうことが出来なかったのです。心に残ります。しかし、あとでクラスの担任の保育日誌を見ると、彼のことを気にかけてアプローチをしていたことがわかりました。幼稚園という小さな社会でも、人間同士がそれぞれ力を出し合えることで、「1たす1は2」ではない働きがなされる場であることを、実感させられます。家庭のまわりにもおうちの方の目線や心持ちをいい意味でちょっと変えてくれる存在がほしいですね。小さい空間でそばにいるのは苦しくなりますから。息が詰まっているかたは、幼稚園の庭にしゃがんでぼんやりと小一時間子どもたちの様子を見ていると、救われるかもしれません。
新人の悩み事
「樹木がある幼稚園っていいね。木陰があって、ほっとする。」
「ほんと、日焼けも助かるし。」
夏休みが明けたら、桜はどんどん葉を落とし始め、庭に散り敷いていきます。
「掃いても掃いても、また次の日…」
自然と向き合う日々です。
園長 松本 晴子