お話の世界へ
ファンタジーという文学のジャンルがありますね。皆さんは何を思い出されるでしょうか。
『ハリーポッターシリーズ』?『ハウルの動く城』?私はファンタジー大好き人間なので、どちらも読んで、その世界に入っていってしまいがちですが、子供達も実はファンタジーが大好きな存在なのです。ファンタジーは空想の世界です。空想にふけるなんて生きていくのに必要ないと思われますか。でも現実の世界と想像力を刺激してくれる別の世界との行き来は、人の心を懐深いものにしてくれるのだと思うのです。
先日あるクラスで『さんまいのおふだ』(福音館)〈昔話再話〉をお帰り前に読んであげることがありました。丁度その日は防犯訓練があって、実際に遊んでいるばらばらの場所から、保育室へ先生方の呼びかけで急いで戻ることをしたばかりでした。そしてこの絵本です。寺の小僧が山ん中ふらふら出かけて、暗くなって帰れない。一軒の家の明かりに誘われて泊めてもらったが…そこは鬼婆さの居る家で…と、話はすすんでいきます。3歳から6歳までの子供達があっという間にこのお話の世界に私と共に入っていってしまいました。息もつけず固唾を飲んでいる空気。そしてお札に助けられて、逃げまくる間の鬼婆さとのやりとりには、げらげら笑い声がこぼれ、そしてユーモアたっぷりの厳しくも愛情あふれる父親代わりの和尚に助けられ事なきを得て、現実の世界に返って来る。この5分ほどの間は大変幸せな時間でした。
センダックの『かいじゅうたちのいるところ』、ポターの『ピーターラビットのシリーズ』等々。子供達にとっては自分がやってみたいとどこかで願っている冒険の数々が、ちりばめられており、その冒険への行き帰りが、これからの厳しい現実世界の波を通り抜けていく懐となり、支えとなるのだと、心から思うのです。目に見えない世界こそ力強いのではないでしょうか。
園長 松本晴子
1本のオオバコ
9月の遠足では海浜公園のたまごの森に行きました。たまごのぼこぼことした遊具は何度登っても楽しく、子供たちは滑ったり登ったりくぐったりを思い切り楽しんでいました。
そこから少し離れたところでAちゃんが一人。自然に興味を引かれるのかクローバーやきのこを見つけていたので私も一緒に植物を見始めました。周りにはオオバコが一杯生えていたので「Aちゃん、これ知ってる?」とひっぱり相撲に誘ってみました。Aちゃんは初めてだった様ですが興味を持った様子で何度も勝負を挑んできました。そのうち、私はしっかりすじの通った草を偶然手に入れました。Aちゃんが何度草を取り替えても勝てません。あまりに切れそうにないのでこのまま続けた方が良いのか、それとなく草を取り替えた方が良いのか私は迷い始めました。迷いながらも続けているとAちゃんは2枚の草を重ねて引いたり、葉っぱの柔らかい部分で引いたり、逆に芯のほうで引いたり、勢いをつけたり工夫し始めました。
そしてとうとう!私の草は切れました。おそらくその草1本で30勝負くらいはしたと思います。最後は勝負というより「切れた」という喜びのほうが二人とも大きかったのではないでしょうか。そろそろお弁当の時間だったのでAちゃんはにこにこと戻っていきました。
こういう遊びをした時、子供達自身の興味や感覚は時代を超えて共通している事を改めて感じます。物が無くともアイディアと工夫次第でいくらでも遊ぶことができ、その方が子供達にとってより自然で面白いという事も思い知らされます。子供達の感覚を大人が考えた世界で鈍らせないように、又、こういった遊び方を大人が楽しめたら、と思いが強まりました。
小林 悠子