2011年7月号

心象風景になっていくもの


台風の海上通過で、大風が吹いた日。風が冷たく、猛暑日から気温は12,3度は下がっていました。「さむいね~。」と子どものつぶやきが聞こえます。自宅からいつものように慌てて飛び出して出勤した私は、あまりの涼しさに、これでは園庭にいたら風邪をひいちゃう、なにかはおらなければと、あせりました。着るものといったら、レインコートしかありませんでした。そんなわけでその日の朝は着ていたのですけれど、登園してくるお子さんの反応が新鮮でした。「あ、ぼくレインコート着てくるの忘れた!」(こういう日は必要だったんだと大人の私の格好から推察したのかも)とか「先生、今雨降っていないよ?」(先生は雨が降っていないことに気がついていないんだ!)とか「先生、なにやってんの?」(先生はどう見てもおかしい)などなど。門のところで結構声をかけてくれたのです。「寒くってね。」と話しかえすと、「そういうときはジャンバーをはおればいいじゃん。」と言われたときには、さすがに私の感覚は普通ではないのかも…と正直思わされました(笑)。
それからその日は子どもたちが幼稚園の草むらから採ってきたものに夢中でした。「ねこじゃらしがこんなに!」と草束にしていたり、一本をこしょこしょと振り回したり、持っている仲間で一列になって走ったり。それを横目にどくだみがはびこっているのを抜いている私。もう白い可憐な花も終わったし、他の植物が負けちゃうからと思ったからです。でもやっぱり通りすがりの子は聞いてきます。「なんで抜いているの?」どくだみで遊ぶ姿は見かけません。私が独特のにおいをかがせたりするくらいです。それでもこれは抜かなくて、これは抜いているというのが不思議なのだろうかと、思い巡らしてしまいました。そして「これはどくだみなのよ。」と話したことで、毒がつく変な草だからなんだと結びつけたかもしれないことを、心配してしまいました。「おなかの薬になるすごい草なんだけれど。」と付け足しても…。もう遅かったかな。
こんな子どもからの学びは、私の衰えてきている脳にすごく刺激を与えてくれます。
こうやってながめて、おしゃべりして、通り過ぎていく風景は、もう戻ってこないんだな~とも思います。どうぞ、あの夏の日のあの風景といえるときを、脳裏に刻める夏休みでありますように。幸福感を生み出す心象風景をもっているといい!って思うものですから。
園長  松本 晴子

この音好き


皆さんは生活音の中でどんな音が好きですか?私達の生活は耳を澄ませばいろんな音が溢れています。食器が触れる音、洋服がすれる音、水の音・・・靴の音、キーボードの音、ドアノブの音・・・風の音、雨の音、木の葉の揺れる音・・・
私は雨の音と積み木をコトンと置く音が好きです。子ども達も毎日色々な音を聞いていて、時々それを口にすることがあります。Aちゃんが「この音好き」とぼそっとつぶやいたのはコンクリートの側溝からプラスチックのシャベルで土を出している瞬間。文字では表現しにくいコンクリートとプラスチックの摩擦音。Aちゃんの心地よい音です。
B君はアルマイトのお弁当箱にフォークが当たった瞬間「剣を抜く音だ」と言ってもう一度同じ音を出そうとしました。C君はビー玉同士をカチカチあてる音。他の遊びをしていても時々確認するようにカチカチと音を出します。他にも子ども達が音に聞き入っている、音に身を浸しているような瞬間を目にすることがあります。そんな姿を見ると是非たっぷりとその音を味わってほしいと微笑ましくなります。
今日はクッキングで、鍋の中の汁をかき混ぜながら砂糖を入れました。鍋底にたまった砂糖とおたまが擦れるざらざらとした音。子ども達は言葉で何とか似た表現をしようと「ざらざら」「さらさら」「ぼこぼこ」と口にします。自分が感じたように、聞こえたように表現するなんて面白い!
耳だけではありません。五感を使おうと意識するだけで、物の見え方、感じ方が変わってきます。台風の後、風の強い日に、固定遊具の金の部分が冷たくなっていることを発見したD君。色々触って最後は桜の木の葉まで確かめました。こんな素朴な発見が子ども達の宝になると私は思っています。
小林悠子

つくしっこクラブ
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