振り返りの時期
幼稚園が一番ほっと出来る時期は、年末年始でしょうか…。2月、3月はあっという間に日が経って、それぞれの一年を振り返っていると、すぐ新年度が始まってしまうのです。
子どもは今を一番生きている存在だと感じるのですが、学年の終わりをどんな風に捉えているのでしょうか。保育者が話す、「こんなに大きくなったよね。」という言葉に自分を重ね、どんなことを体験してきたかを振り返る帰りの会は、各クラスなかなか楽しい雰囲気です。今だけを見ていれば、あーはがゆいと感じることはあるものです。私など、ある目的地にたどりつくと、おおーとその空間を味わえばいいのに、すぐ先の道のりのことを考えてしまい、いつも息切れ状態なのですが、それを子どもたちに見せないように努めるようにはしてきました。はるこ先生っていつもぼーっとしているみたい…くらいで丁度いいかなと思うのです。そうするとおもしろいことを話してくれたりします。先日はぶらんこの膝こぎを見せてくれた年長児が、「先生もやってみて!」と気軽にいうので、「いいよ!」と軽はずみにもやりだしたのですが、きついきついで腹筋もがちがち、足の骨も板がくいこむような痛さで、びっくりでした。こんな大変なことを悠々とやっていることの中身の深さに、遊びの中で学んでいるのが確認できたひと時でした。
短い3月の早春の日々を、こんな確認で満たしたいと願います。
園長 松本 晴子
気持を汲み取るということ
ある日、園バスに添乗した時の事。バスの出発時間まで、子ども達はそれぞれが幼稚園で借りてきた絵本を開いていました。週に一度のお楽しみの絵本です。
少しして私はバスが出発するため、絵本を手提げに入れるように声を掛けました。でも片付けようとしないA君。ただ黙々と絵本を読んでいます。「A君、もう片付けるんだよ」B君。それでもA君は読み続けます。私はそこで一揉めするのではないかと内心身構えていました。
でも、そのあとC君とD君から出てきた言葉は私を驚かせました。「いいんだよ。A君は今怒ってるからそのままにしておいた方がいいよ」「口が曲がっているから怒ってるんだよ」 続いてC君が「うん。そうだよ。読み終わったらしまうと思うよ」
私は一言も口を挟まずやりとりを聞いていました。はじめに絵本を片付けることを言い出したB君は、もう何も言いません。A君は黙々と続きを読みます。
バスは出発しました。子ども達はA君が絵本を読んでいる事はもう気にせず、おしゃべりをしたり、歌を歌ったりいつものように過ごしています。“バスの中では絵本は読まないこと”子ども達に普段伝えていることです。でも私もこの時は止めませんでした。
理由は色々あります。子ども達同士で考え作ったこの流れと空気を崩したくない事。その場に違和感が生じていない事。A君を無理に止めることは逆効果だと感じた事。友達に思いを汲んでもらった事で感じたA君の気持ちを大事にしたいこと、等々。A君は終始絵本に気持も視線も向けていましたが、友達のやりとりは聴いていたのだし、心の中ではきっと安心感や温かさも感じていたことでしょう。
私はこの場に居合わせた子ども達もまた、本当に良い瞬間に巡り会ったと思いました。枠に捕らわれすぎず、その場の状況に合わせて相手の気持を汲み取ろうとし、又言葉を尽くす友達がいること。それを見たり聴いたりしていることはとても大切なのではないかと思うのです。ルールに基づいて言い聞かせることを選ぶのか、それともルールからはみ出した時、どう受け止めていくかを体験させることを選ぶのか…私自身問われた瞬間でした。A君は最後まで何も言わず自分のバス停で降りていきました。子ども達のやりとりの中には、しばしば正論では太刀打ちできないものが生まれるのです。
小林悠子